占いフィードバック
※創作です。先程思いついたので書いてみました。特になんの為にもならないお話しですがお時間があれば暇つぶしにどうぞ。
日曜の16時50分、夕方と言って良さそうな時間だが、太陽はまだ落ちる気はなさそうだった。私はリビングで膝を抱えて本を読んでいた。背中が丸まっているのを感じながら、目は文字を追っていた。
そんな時、突然聴覚が刺激された。
ピンポーン。
無機質で、それでいて無駄に大きな音にびっくりしながら私はのろのろと立ち上がった。
インターホンを確認しに行くと茶髪の髪の長い女性がカメラ目線で立っていた。目がぱっちりとしていてまつげが長い。年齢は、私と同じくらいだろうか?
私が一応、応答すると彼女は尋ねてきた。
「藤田まりあさんのお宅ですか?」
「えっ」
「26歳、生年月日は1994年、12月11日ですか?」
私は絶句した。よくわからないが、怪しい人が来たみたいだ。やめておけばいいのに、何故か私は鍵をあけて彼女と面とむかって話をして見ることにした。好奇心に動かされる、というのはこういうことなのかな。
なんでも、彼女は占い師だという。家の近くを通りかかったところ、なんだか不穏な雰囲気がこの部屋からしたそうだ。名前と、生年月日も占いで分かったとのことだった。それは本当に占いなのか?超能力ではないのか。
とにもかくにも、彼女は私にこれから何か悪いことが起こるはずなので、しっかり占ってあげたいのだと言う。
「まあ、立ち話もなんなので」
そういってズカズカと家に上がってくる。ちょっと待て、それは私のセリフだ。
しぶしぶリビングの椅子に座らせ、一番安いティーバッグでお茶を入れて出した。
「私、緑茶は飲めないんです」
そんなのは知ったことではない。私は華麗にスルーした。
「それで、占ってくれるんですよねぇ」
と聞くと、彼女はあ、そうだった!みたいな顔をした。
「ええ、ええ、そうですよ。ところで、あなた彼氏がいますよね。どうですか、最近うまくいってますか」
「はぁ、なんですか、なんの質問ですか」
あからさまに機嫌を悪くした私を見て少し嬉しそうだ。彼女は性格が悪いのかもしれない。
「彼の名字は佐藤ですね?名前は。。。錦ですね。」
「占いでそんなことも、わかるんですねぇ」
「ええ、彼との今後のことも、分かりますよ。」
「へぇ、そうですか。」
「というより、彼氏とのことで、今後悪いことが起こりそうだから不穏な雰囲気がするみたいですよ」
そういって、彼女はおもむろに私が出したお茶をすする。なんだ、飲めるじゃないか。
そして、彼女は続けた。彼氏と一緒にいると悪いことが起こる、できれば3日以内に別れたほうがいい、なんなら明日にでも悪いことが起こるから、と早口に話す。悪いこと、の具体的な内容は占いではわからないらしい。
「じゃあ彼氏と別れれば、悪いことは起きないんですね」
「ええ、そうです。分かっていただけましたか」
私は納得したふりをしてみた。夕ご飯どきだ、そろそろお腹が空いてきたので早く帰って欲しかった。
それでは、と口を開いた彼女は
「今日の占い料金ですけど、1500円です」
と言った。
お金、かかるのか。もしかして、そういう新たな詐欺みたいなもんが流行っているのかな。早く帰って欲しいのは山々だったのだがなんとなくこのままお金を払うのは尺である。
「現金、持ってないんですけど。LINE Payでいいですか。あと、本当に悪いことが起こったら払います。」
彼女はむっとしたが、それでも私にLINE の連絡先を教えてくれ、しかもすぐに「よろしく♪」とご機嫌なうさぎのキャラクターのスタンプを送ってきた。え、あなたキャラがぶれぶれなんですけど。
彼女は立ち上がり、「絶対に、別れたほうがいいですから!」と何度もいいながら帰っていった。
私はため息をついて、ハンバーグを作り始める。そうしているうちに、隣の部屋からドン、という音が聞こえて、あ、帰ってきたのだな、と思った。
月曜日、仕事から帰ってくると、驚いた。ドアノブが赤い液体でべちゃべちゃになっていた。
よく見るとそれはケチャップだった。そしてドアノブから目線を上げると、ケチャップで文字、のようなものが書かれていたようだが、重力に逆らえなかったのか、下にだらだらと垂れており、もうそれは文字とは呼べなかった。おそらく、文字として存在していたケチャップが垂れてドアノブを汚してしまったのだろう。
郵便受けには紙切れが挟まっている。
「別れろ」
私は昨日の占い師を思い出す。これが、悪いことなのかな?
「うわ、お姉ちゃんなにそれ」
妹が帰ってきたらしく、こちらに近づいてきた。彼女は隣の部屋に住んでいるのだ。
過保護な親をもつ私たち姉妹は一人暮らしがどうしてもしたかったのだが、なかなか許してもらえなかった。なんとか2人で頼み込んでやっと、同じアパートの隣同士の部屋で住む、という条件で「一人暮らし」を許されていた。
「一人暮らしって危ないんだねぇ」
と、妹が呑気なことを言っている。他人事だなぁ。
不用意に他人を家にあげる私も人のことを言えないが、親に大事にされすぎたためか、私たち姉妹はいくぶん呑気に育ちすぎていると、自分でも感じる。いや、呑気だからこそ、過保護にならざるを得ず、心配されているのかもしれない。一応姉である自負があるので、妹よりはしっかりしているつもりだったし、ボケかツッコミかと聞かれれば、妹といるときは私はいつでもツッコミだった。
あ、そうだ。本当に悪いことが起こったので、お金を払わないといけないんだった。とりあえずよろしく♪のスタンプのある画面を開いた。
「あの、悪いこと本当に起こりました」
すぐに既読がつく。
「え!マジですか!どんなことがおこったんですか??!」
占い師は食い気味に聞いてくる。やはりキャラがぶれぶれだったが、占い師として、フィードバックが欲しいのだろうか。
「それがドアにケチャップでいたずらされてて、郵便受けに、別れろって紙がはさまってたんです」
「それは怖かったですね。。。大丈夫ですか?でも、これからももっとひどいことが起こるかもしれないですから。。。早く別れたほうがいいですよ😂」
私は顔文字にイラッとしながらも返信する。
「大丈夫です、私、一人暮らしで危ないからって心配してくれた家族が防犯カメラをつけてくれたんです。犯人がばっちり映っているはずです。変装とか、してたらもしかしたら見つけるのに苦労するかもしれないけど。これから確認して、警察に届けようと思ってて。」
すぐに既読になったが、返信は来なかった。あれ?フィードバックに興味はなくなったのだろうか。
とりあえず、占いは一応当たったのだ。送金するか、そう思ってLINE Payを開いてみたけれど、うまく送金できなかった。どうやらお金にも興味はなくなったらしい。
それから数ヶ月経っても、占い師からはもう連絡がこなかったし、それ以上の悪いことも起きなかった。一応妹にも悪いことがおこってないかどうか、彼氏と別れていないかどうか確認してみた。占い師からまた連絡がきたら、フィードバックしてあげないといけないからね、と考えている私も性格が悪いなと反省する。
占い師が訪ねてきたあの日のように夕方なのにまだまだしぶとく太陽が明るく部屋を照らしていたから、彼女のことを思い出してしまったのかもしれない。
しかし、今日は場所は違う。実家の自分と妹の部屋で、1人ぼーっとしている。
一人暮らしをするまではずっと2人部屋だった。だから、1人暮らしがしてみたいと思ったし、部屋が別々にもらえればそれだけでよかった私たちは、隣同士に住むこと、という親の出した条件をあっさり飲んだ。仲が悪いわけではない、むしろ良すぎる私たちはこのまま一生同じ部屋で過ごしていてもなんの不満もなかった。それでもやはり、いつまでもべったりと一緒にいるわけにはいかないだろう。少なくともベッドがぴったりと二つならんだ部屋でアラサー姉妹が過ごすのはおかしいような気がしたし、婚期を逃しかねないと2人して焦ったのだ。
ふと、二つならんだベッドを見る。今日は妹は帰ってこない。結婚式を明日に控えた新婦は、一般的に実家には帰ってくるのか、そうでないのかはよくわからなかった。
結婚か〜。まずは私も彼氏を作らないといけないよな。
ベッドにどすん、と腰をかける。
姉としては先を越された感が否めないものの、まぁ双子なのだから、姉とか妹とかはほぼ関係ない、とも思った。私は私、まりあはまりあだ。
そうだ、もう一度祝福しておいてやるするか、と思い直し、LINEを開く。
「結婚おめでとう、まりあ」