本を読むとすぐに感化される人の読書記録

読んだ本の記録がなんとなく誰かの目に触れてほしい気がする。

アヒルと鴨のコインロッカー

こんにちは!まりあです。

今回は伊坂幸太郎著、「アヒルと鴨のコインロッカー」です。

伊坂幸太郎作品を読むのは2つ目!になります。前回アイネクライネナハトムジークを読んだ時にTwitterのフォロワーさんから伊坂作品の中でおすすめをいただいたので読ませていただきました!

ありがとうございます😊

 

さて、読了ツイートでは簡単にあらすじを書きました。

大学生活を送るため、単身上京してきた青年、椎名。アパートに引っ越してきて初めて彼が出会ったのは「シッポサキマルマリ」という名の猫であり、その次は「川崎」という悪魔のような見た目の男だった。川崎は彼を誘う。「一緒に書店を襲わないか?」

 

という感じで書きました。しかし、読んでいくとこれは導入のほんの一部だと気づきます。Twitterの140字ではおさまりませんでしたね!

この物語は「現在」と「2年前」の二つの時間軸をいったりきたりしながら進んでいきます。導入で登場の大学生、椎名が語る川崎との出会いから始まるお話が現在。そして「2年前」のパートでは琴美という女性が語り手であり、「川崎」という男と以前交際していたが現在はブータンから来た留学生であるドルジと交際しているという設定です。

琴美とドルジと、川崎の奇妙な三角関係を中心に進んでいきます。

こういった二つの場面を交互に見せる手法をカットバック形式、というようです。アイネクライネ〜ではカットバックではなく、連続短編小説という形で違う時間軸だけどそれぞれ少しずつ関わりがあったので、伊坂先生は時間軸を複数操りながら話を作るのがお得意なのではないでしょうか。

2作品しか読んでないから他の作品についてはわかりませんが。。。

 

内容について触れていきましょう。

「現在」では椎名と川崎がある書店の閉店後に侵入し「広辞苑」を盗み出します。川崎がいうには、同じアパートの川崎の隣の隣の部屋に住む外国人留学生が恋人とお別れして塞ぎ込んでいるため、元気づけるため以前欲しがっていた「広辞苑」をプレゼントするのだという。

プレゼントなら、犯罪を犯さず買って渡せばいいと不思議に思いつつも、椎名は川崎に協力することなる。

その後は若干の罪悪感を感じながらも大学生活を送ろうとする椎名に不思議な出来事が立て続けに起こる。川崎の様子も、どこかつかみどころなく奇妙である。。。

 

「2年前」の世界ではペットが連れ去られて残虐に殺される「ペット殺し」が立て続けに起こっていた。琴美とドルジはひょんなことからペット殺しの犯人である若者達に目をつけられてしまう。彼らから逃れる際に住所と電話番号の書かれている定期入れを落としてしまったため、琴美のアパートには彼らからの脅迫の電話がかかってくるなどの脅威が迫るものの、警察は何かが起こらないうちには動いてくれない。。、また川崎はなんらかの病気にかかっていて、命の危険を感じている。2年前のパートは全体的に不穏な空気が流れています。

 

後半に進むにつれて、2つの時間軸は大きく関わり合い、椎名は「現在」の主人公でありながら「2年前」の物語の途中参加者であることがわかってきます。

そしてどんなに話が進んでも、現在に琴美は現れない。それがより一層2年前のパートの雰囲気をいやーな感じに加速させています。読者の安心するようなエンディングが待っているわけがない。

 

終盤は2年前のペット殺しと琴美達の攻防の結末が描かれ、現在においても怒涛のタネ明かしがされることで、椎名が途中参加することになった「2年前から続いていた物語」が終わりに近づきます。

 

以上ができるだけネタバレをしないように書いたこの物語の全貌です。

私は序盤から琴美が絶対に無事で済むわけがないだろうと思っていたので、

お話の続きが気になるけど知りたくない。。。という気持ちで読んでいました。しかし、結果的に私が予想していたよりは残酷な結末ではありませんでした。どちらかというと琴美は感情的で無謀なことをしたためハッピーエンドでは絶対になかったけど、琴美の勇気ある行動でペット殺しの若者たちによる被害を食い止めることができました。ただ琴美が理不尽に被害を受けるだけでなくて、まだ救いのある結末であったと思います。

 

また、ドルジや川崎の正体については私はタネ明かしされるまでまったく気づきませんでした。ドルジの見た目について2年前のパートで強調されていたのにはわけがあったのですね。

本作のタイトルのアヒルと鴨もドルジの見た目に関係のある描写です。アヒルは外国からきた鳥で、鴨は日本の鳥。同じ鳥で見た目は似ているようだが全然違う。

 

川崎の病気についても触れていきましょう。2年前の川崎は整った容姿を武器にたくさんの女性と関わりをもつことを「生きがい」としています。ただチャラいだけではなく、本当に生きがいとしていたのでしょう。

川崎がなんの病気であるのか?これは流石に彼が病院に通っている描写が出てきた時にピンときて、AIDSだ、と思いました。だから命の危険を感じて「時間がない」と言っているのだと思いました。

しかし、実際にAIDSを発症していたわけではなくHIVウイルス感染に留まっていたようなので、治療できればそんなに焦る必要はないのではないかと思いましたが、この世の女性すべてと関わりを持つことを生きがいとしていた彼にとっては大きな心の負担になったことでしょう。

川崎と琴美は交際歴があり、ドルジとの三角関係が描かれており、川崎がいろいろな女性と関わりたいと思っている割には琴美に結構執着しているなと感じました。ドルジはお国がら、一夫多妻やその逆にも寛容であるため川崎が琴美に執着している様子にあまり不快感はなく、むしろ日本語の先生として慕っていました。

川崎はやはり琴美とよりを戻したいのだ、そう言った三角関係の物語なのだと捉えていましたが、川崎の病気について明かされ、そしてその後にはっきりと琴美と川崎に体の関係がなかったことが明記されていることから、川崎の琴美に対する気持ちに納得することができます。

体の関係がなく、これからもその可能性の低い琴美は川崎にとって心の負担の軽い相手だったんだろう。

読者の、というか私の「チャラ男にもやはり一途な愛があるのかもしれない」という期待はぶち壊されました。登場人物の設定がしっかりしているな、と逆に関心させられました。

 

この作品はフィクションとして安心しつつ、ペット殺しやHIV感染、外国人に対する日本人の態度など、社会的な問題も盛り沢山でいろいろ考えさせられながらも「サスペンス」というジャンルとして楽しめる小説だなと感じました。

今後も伊坂作品をどんどん読んでいきたいなと思いました!

 

ご紹介いただいたこいこいさん、ありがとうございました😊